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北上市 サイトウデンタルクリニック 治療小物物語:入れ歯はいれません

治療小物物語respective  stories

Vol. 5 入れ歯はいれません

心疾患と高血圧症で加療中の79歳のおばあちゃん(Dさん)が、某医院からの診療情報提供書を持って来院されました。「歯がグラグラして痛くて噛めないんです」ということです。提供書には、「ワーファリン内服下での抜歯をお願いします」との依頼でした。早速口の中を見せてもらいました。奥歯には歯が無く、噛めるところは前歯だけでした。しかし、その頼みの綱の前歯がグラグラになり、噛めなくなってしまったのです。我慢に我慢を重ねてきたことが伺えました。とりあえずグラグラの2本の前歯を抜歯して、次の日、消毒と一緒に「このままでは全然噛めないので、仮歯でも作りましょうね。」と言って、上下の歯型を採りました。その時の石膏模型がこれです。












この時点で検査した結果、更に上の歯は3本全て、下の奥歯は最後に残った1本さえも抜歯しなければならなかったのですが、この模型からもわかるとおり、まずは噛めるようにならなければ健康は保てません。そこで抜歯は後回しにして、仮歯作製に取り掛かろうとした時に、Dさんから意外な言葉が漏れました。「入れ歯は作らなくていいです!」 「オレ 家のカアさんにクラレタ(叱られた)のス。ナニ 『行けば治療代かかるし、ガソリン代だってバカにならね。いたくねば(痛みが無ければ) あとはいいんだ』っていうのス」・・・・・・・・・・・・話を聞くと、Dさんの貯金(約20万円)も年金も全てカアさんに取られてしまい、自分で使えるお金は全く無いこと、自分なんか居なくてもいいと思われていること、でも、自分としては入れ歯を作って欲しいということが分かりました。この話を聞いたとき、般若のように赤い目をつり上げてDさんに襲いかかろうとするオニヨメを思い浮かべました。
 しかし、見方を変えれば、Dさんの5年以上の闘病生活、そしてその後の老人養護施設での生活を支えてきたオニヨメさんにとっても、経済的余裕など無かったに違いありません。この人間の尊厳すら守りきれない日本の低医療費政策の中で もがき苦しんでいる多くのDさん達やオニヨメさん達がいることを知らされた気がします。
 その現実の医療現場にいて、ただDさんに「おカアさんとよく話し合って、なんとか通えるようになればいいですね。私の方でも協力出来ることがあれば相談にのりますのでお電話下さい」としか言ってあげられませんでした。その後、電話を待っていたのですが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 そして2週間後、孫娘さんの送り迎えで、Dさんが通えることになった、という電話が入りました。
 その日はこころなしか、従業員の声が何時にもまして明るく聞こえました。

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